36年勤めたNHKを定年退職した後、2007年から6年間、同じNHK退職アナウンサーたちと、LLP「ことばの杜」というグループを作って、子どもの「話し言葉」を育てる活動を続けて来ました。
その中で各地の言葉教育の現場を見てまわりました。そこで気づいたのは、もう一度地域のつながりを取りもどさなければ、子どもの言葉を育てることはできないということです。今や家庭の大半は核家族、そこにあるのは親子の会話だけ。学校の先生は忙しすぎるし、教えている話し言葉は、ディベートやスピーチなど公の言葉が多いようです。
私が、今の子どもたちに是非必要だと思うのは、日々の暮らしの中で「隣の人と心を通わせる」ための言葉です。どんなタイミングでどんな言葉を使えば、人を傷つけず、優しい気持ちで良い関係が結べるか。周囲の人と良い関係を築く言葉の力です。しかし、親や先生以外の大人の言葉を聞く機会のない今の子どもたちには、そういう言葉を学ぶ場がないのです。
今、子どもの言葉を育てる上で一番の問題は、地域社会の崩壊だと感じました。地域のつながりを取りもどし、幼い子どもからお年寄りまでが一堂に会し、一緒になにかをする「場」を作れば、子どもたちは、異年齢の人々の多様な言葉を聞くことができます。そこでいろいろな人々の振るまい方を見れば、人間の関係によって言葉が変化することを自然に学び、人生を切り拓く人間力としての言葉の力も身につくはず。そんな思いで2013年1月、愛知県半田市で「新美南吉生誕百年」を機に、半田市の先生方や朗読グループ、新美南吉記念館のみなさんと、「ことばの杜」が力を合わせ、南吉の作品をみんなで朗読する「みんなでごんぎつねプロジェクト」をスタートさせました。小学生各学年と20代から70代までの大人、34人が半年間、毎月2回ずつ集まって勉強しました。それが異年齢の会話の場にもなりました。意味調べをしたり、各章ごとにタイトルをつけたり、「ごんぎつね」の舞台を歩く遠足にでかけたり。そして7月27日、半田の雁宿ホールで、全員が舞台に上って朗読。見事な朗読会になりました。
これでLLP「ことばの杜」のグループとして活動してきた目的は達成できたと考えます。今後は私個人として、半田のような、地域作りと子どもの言葉を育てることを組み合わせた活動を、各地に広めて行こうと思っています。賛同し、わが町で、わが村で、とお考えの方、是非、お声をおかけ下さい。よろしくお願いいたします。